土佐酒の話〔6785〕2021/11/12
2021年11月12日(金)晴れ
今日は土佐酒の話。
以前にも一度触れたけど、こんなマップがつくられてます。TOSSAKE MAP。高知県でつくられる日本酒を、その特徴によってマッピングしたもの。上にいくほど淡麗辛口で、下へいくと厚み、幅のある味となってます。そして右へいくほど華やか、フルーティで、左へいくとしっかり、個性的。これを監修してるのは高知県工業技術センターの有名技術者さんなので、かなり信頼度の高いマップになりました。いつも、僕の部屋の壁に貼ってます。
土佐酒が、特に、生酒とか純米酒とかの冷酒にして飲むようなお酒が、現在のようにレベルが高くて美味しいものになってきたのは、その工業技術センターのマエストロ、Uさんの功績あってこそ。酵母と醸造の特徴を科学的に研究し、どんな風味の酒を醸すには、どういう酵母を使用してどんな醸造をすれば良いのかを整理して、県内酒造メーカーに、その情報を惜しみなく伝えたのでした。
そんな訳で、今、土佐にはたくさんの美味しいお酒、素敵なお酒が存在し、全国へ、世界へと販路を広げております。確かに、おいしい。
そこで振り返ってみよう。土佐酒の世界が、こんなにもおいしくてバラエティに富んだものになったのは、比較的最近のこと。思い出してみよう。たぶん、この30年くらいのことのような気がしてます。
僕が社会人になり、お酒を飲み始めた頃は、そんなものは無かった。ありませんでした。たぶん、土佐の酒蔵のつくるお酒の圧倒的販路は宴会酒だったと思います。本醸造がメイン。お酒といえば、一升瓶のそんなお酒をお燗して、飲む。土佐人は、県外人が見ると少し驚く小さいお猪口で、飲む。酒飲みの土佐人がこんなに小さいので飲むのか、と驚かれる訳やけど、ひたすら延々と返盃を繰り返す土佐の飲み方では、あの小さいお猪口でないと無理なのでした。
そんな僕が若い頃。ある、仕事や人生の大先輩が、「これがおいしい」と言うて飲んでた酒がありました。瀧嵐の生酒。こんなの。配送を冷蔵で、というのにこだわったのは、当時としてはかなり珍しくて、その大先輩はその考え方に感心し、そして飲んでました。飲んでました。飲んでました。
とんでもなくお酒に強い大先輩。酪農家さんと飲んだりするとき、その作法や飲み方を教えてくれたのも、その大先輩。とんでもなく飲むのですが、その酒は楽しく、一切乱れたことがない、キレイなキレイなお酒飲み。
で、この瀧嵐の生酒は、コップに入れてごくごく飲んでました。あるとき、僕が、「どんなところが美味しいと思いながら、日本酒飲んでますか?」と尋ねたことがあります。その質問への回答は「喉ごしぢゃね。」
つまり、ゴクゴク飲んだときの喉ごしがタマラン、という話。ビールの話ではありません。日本酒の話です。本当の酒飲みってのは、レベルが違いました。
その大先輩が目をつけたのが、当時としては珍しかった冷蔵輸送の「瀧嵐生酒」。
あれから幾星霜。土佐酒も、生酒、純米大吟醸は当たり前になり、宴会酒から料理を楽しむ為のお酒へと変化してきました。そしてつくられた、このマップ。その大先輩には、酒飲みとして、先見の明があったのでしょう。
もちろん生酒、冷酒をゴクゴク飲むのも好きやったけど、宴会で燗酒を飲むのも好きでした。
コロナでしばらく、土佐流宴会もやってません。あの返盃文化がどうなるのか気になるところではあるけど、今は、時代を先取りしたこのお酒の系譜を、家で、じっくり楽しみたいと思う、秋の夜長。