破砕帯地滑りと、御荷鉾帯地滑り〔6659〕2021/07/09
2021年7月9日(金)薄曇り
今朝は、早朝からひと仕事済ませて、国道32号線を香川方面へと走ってます。車でね。
ここはJR土讃線繁藤駅。この駅は、かつてマンガン鉱山からの搬出駅にもなってたこともあって、線路がいっぱい。その線路に架かる歩道橋の上から撮影しました。高知行きの汽車が到着してきてます。女子高生が3人、繁藤駅から乗っていってました。
この左の山の斜面。ここが、今から49年前の7月5日に60名の犠牲者を出した、繁藤災害の地滑り現場。最初の小さな地滑りから、消防団員などがその救助に当たっていた最中の大規模地滑りで、尊い命が犠牲になりました。ここに、大雨で止まっていた汽車も、穴内川まで流されたといいます。
その地滑りは、いわゆる「破砕帯地滑り」でした。この山には、元々破砕帯が露出しておったそうです。破砕帯は、黒部第四ダムとか丹那トンネルとかの工事にも大きな影響を与えた地質。断層で、長期にわたって地層と地層が擦れることで固い地盤が破砕され、その隙間に水が溜まりやすくなっていす、破砕帯。なので、例えばトンネル工事とかが破砕帯を通ると、そこから凄まじい水が噴出して、工事の妨げにもなるし、その水を利用していた人々にも大きな影響を及ぼすのであります。丹那トンネルの工事で、その上の盆地から水が消えたのが、典型的事例。吉村昭「闇を裂く道」は、ぜひ読んで欲しい。リニア新幹線でも、問題になってますね。
高知の大規模地滑りで一番ポピュラーなのは、破砕帯地滑りではなくて、御荷鉾帯地滑り。幾度か書いてきました。例えば大豊町の怒田とか、本山町の吉延とか、棚田で有名なところは御荷鉾帯であり、地滑り地帯でもあります。
御荷鉾帯は、岩石が風化しやすくて粘土質になりやすい。そして斜面が緩いのが、特徴。
ここで重要なこと。斜面が急だと地滑り起こしやすいと思いがちですが、一概にそうとは言えません。御荷鉾帯の場合、斜面が比較的緩くて粘土層が多い為に、そこに大量の水が溜まりやすい。だから畑ではなくて棚田になっておる訳やけど、これが地滑りを引き起こしやすい訳であります。敬愛する故鈴木堯士先生の表現だと「洗面器の中に水を溜めた状態を保っている」のが、御荷鉾帯の地滑り地帯。
だから、土讃線でも、その地滑りを避ける為に、僕らが子供の頃に大杉トンネルとかが掘られた訳です。
今回の熱海の地滑り。これはもう、人災の様相を呈してきましたが、メカニズムはこの、御荷鉾帯地滑りに似てます。粘土質の上に、規定以上の残土。そして、排水措置が、規定に反して取られていなかった模様で、そこが、「洗面器に水を貯めた状態」となって、一気に土石流となって谷を下った。そういうことだと想像できます。
土木の法規とか規則とかは、ダテに細かく規定されている訳ではない。長い年月の知見と技術の積み重ねで、構築されています。だから、軽く見たり蔑ろにしてはならない。
この繁藤で起きた地滑りは、想定外の雨量が破砕帯に溢れて崩れたもの。それは、これからも起こりうる災害。あの災害の教訓は、二次災害には細心の注意を払わんといかん、ということでした。
熱海の地滑りは、土木に関して規則を蔑ろにすると、とんでもないことになる、と教えてくれます。
不明者の捜索や復旧にはまだまだ時間がかかると思われます。心よりお見舞い申し上げますとともに、二度とこんなことが起こらないことを、願います。