辷り落ちた風景〔6272〕2020/06/17
2020年6月17日(水)こんな朝
時折、こんな美しい風景に出会すこと、あります。今朝、出勤途上の下田川河口。五台山の南。今朝ちょっとお寝坊さんだったので、出勤がいつもより遅くなったらこんな風景。朝4:45頃でしょうか。
人間の「目」という光学センサーが、その量子的働きによって脳味噌に伝えた信号を、僕らはこんな風に再現、イメージし、感じているという不思議。これを「美しい」と感じる「理由」はわからんけど、美しいものは、美しい。
こないだうちから、鈴木堯士先生と寺田寅彦先生について書いてますが、この風景をみて、寺田先生は何を考えるだろう。高知工科大学の全卓樹先生が「複雑系物理学の世界的な先駆け」と評した寺田寅彦だから、これを見ただけで、広汎な広汎な考察をしたでしょう。光のこと。雲のこと。水のこと。そして地形のこと。
実は、ここの地形についての考察は、こないだご紹介した「寺田寅彦の地球観」で触れられてます。
浦戸湾の西側に連なる南嶺は、浦戸湾を東へ渡ると南へ500mほどずれており、しかも100mばかり沈降している、という話、書きました。
「浦戸湾の東側の細長い地塊が、これに対応する西側の地塊に対して1/5ないし2/5の勾配の斜面を南へ500m辷り落ちたことを暗示している。」
これね。そして。
「このことは、浦戸湾東山脈とその北方に孤立した五台山との間に、広い凹地(下田川、池地域を中心とした溝)があるのに、浦戸湾西側には五台山に相当すると思われる神田山が湾の西連山に密接していることからも裏書きされる。」
鈴木先生が寺田先生の論文を読み解いてくれた文章ですが、「なるほど」という感じ。
実はこれと同じことが浦ノ内湾と横浪半島でも起こっていると寺田先生は喝破する。つまり、横浪半島が南へ、沈降しながら辷り落ちることで、浦ノ内湾が生まれた、という考察。この話聞いてから地形見てみると、「なるほど」という感じですが、これを見つける寺田先生って、やはりすごい。
でもすごいのはその先。高知県中央部全体が沈降すし、南側へ辷り落ちる原因は、室戸を中心とした四国東部の隆起にある、と考えた寺田先生。
まだ、室戸が隆起していると誰も気付いてなかった90年前に、そんなことを考えたのであります。すごいね。
今の高知大学の地学研究は、この寺田先生の考察の系譜を引き継ぎ、鈴木先生などの優れた研究者を生み出しながら、今に至っていると考えたら、この風景も違って見えてくる。きませんか?
この美しい下田川河口の風景は、室戸の隆起と連動したもの。
地球の営みと、それを解き明かす科学者の目に感心しながら、今日も一日が始まります。