ひまわり文庫、2020年5月、コロナ禍の中の新刊と旧刊〔6227〕2020/05/03
2020年5月3日(土)晴れ
Stay at homeの連休は読書三昧、という方も多いでしょうかね。それもまた、良い過ごし方だと思います。世の中コロナで大変だけど、このにっこりひまわりは粛々とひまわり文庫、今月の新刊。いや、旧刊もあるけど。粛々と会社に出てきて、書いてます。
まずは、旧刊から。
「宇宙と宇宙をつなぐ数学」。先日来、結構話題になってる本。世界中の数学者を驚かせた、未来からきた理論とも言われる「宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)」。その理論を構築したのは京大数理解析研究所の望月新一教授で、その盟友、加藤文元教授が、いったいどんな感じの理論であるのかを僕ら素人に教えてくれる本が、「宇宙と宇宙をつなぐ数学」。すごいっすよ。数学の新しい地平が、ひらけてゆく。超難問ABC予想は、この理論の証明の中の一部分である、と言われたらね。もうね。
この本、去年8月の新刊でご紹介してるけど、今回、IUT理論が権威ある専門誌の査読が完了したのを受けて、改めて再読してみたのでありました。
もちろん、僕にちゃんと理解できる訳はないけど、2度目となると、なんとなくわかった気がする感が、40%くらいアップしました。再読、面白かったです。
こういう画期的に新しい学問領域を切り拓く場合、多くの反論や抵抗、誹謗中傷にあってしまうのは、人類の常。なかなか理解されない。そんな例が「ガロア」。上記の本を書いた加藤文元先生が、フランス革命後の混乱するフランスで、激しく、悲劇的な生涯を駆け抜けた数学の天才、エヴァリスト・ガロアの評伝「ガロア」を書いてます。今、高等数学の世界で、なくてはならない理論になっている「群論」を、ただ一人で考え出した天才、ガロア。反政府運動で激しく活動したりしながら、なんと、20歳で、しなくてもいいような決闘によってこの世を去った天才ガロア。そのガロアの理論も、生きている間には学会の権威に認められることはなかった。ガロアの死後、かなり経ってからその仕事が発見され、とんでもない、数学の新しい地平を切り拓くものであったことが世界に認められた、理論。いや、凄まじいエヴァリスト・ガロアの人生。
いかん。2冊の紹介で、こんなに長くなってしまった。こっからは短くいこう。
新聞の書評欄で見て、追手前小学校の一年先輩、アボミクルさん(大森望さん)が編集した「2010年代SF傑作選1」。最近、SF、読んでなかったから、読んでみました。なるほど。なるほど。
昔、星新一とか筒井康隆とか小松左京とか半村良とかにハマった僕だけど、まあ、今のSFにはそんなにハマりそうではないな、ということ、わかりました。まあ、好みの問題。
柚月裕子の作品は、「孤狼の血」に始まって、先月の検事佐方貞人シリーズなど、続いてます。そもそも、「仁義なき戦い」が好きだったところから共感を覚えた柚月裕子。その出世作となったのが、「臨床真理」。あと、「蟻の菜園」は、かの松本清張の「砂の器」を思い起こさせる、そんなストーリーの、ミステリ。僕の柚月裕子ブームは続きそう。痛快丸かじりの柚月裕子。
今回唯一の新書は「日本思想史」。これまた題名が、大きいのう。仏教学や日本の思想史が専門の末木文美士先生が、日本の思想を「王権」と「神仏」の2極構造と捉えて縦横無尽。頭、使います。
「菌は語る」はね、細菌学者の著者が、寒さを好む菌類、雪腐病菌などの生態をおもしろおかしく、愛情込めて書いた本。だけど、ちょっとオダちすぎ。オダち過ぎてます。まあ、いいけど。
さて。
こっからは昔の東京シリーズだ。馬場孤蝶、田山花袋から入って、完全にマイブームになってしまった、昔の東京シリーズ。
「モダン都市東京」は、日本のアート、文学の歴史の中で、1920年代という不思議な時代にスポットライトを当て、そこで活躍した当時気鋭の表現者たちのあり様や、都市の雰囲気を、見事に描き出してます。面白い。ヨーロッパでダダが起こり、日本でもモダンが都会を席巻する、そんな時代。関東大震災をはさんで、劇的に変貌する巨大都市東京を、当時の文章などによって再現していく試みは、とんでもなく面白いです。また、この本が書かれた1980年代と1920年代を比較したりしてるから、それを2020年に読むのもまた、楽しい。いや、楽しかった。面白かった。超おすすめ、「モダン都市東京」
で、その本に、1920年代の新宿界隈で、カフェーの女給をやったりしながら街の底で生活する林芙美子のことが出てきます。「放浪記」に描かれる、1920年代の東京。
なので、買ってしまいました。「放浪記」。読んだことなかったけど、すごいっすね。大正から昭和にかけての時代、都会で一人で暮らす女性の生き様。女性の強さ、弱さ、強さ。
最後は「大東京繁盛記」。
昭和2年という時代。僕の父が生まれた年に、東京日日新聞がある連載企画を打ち出しました。
「昭和2年の東京のすがた」「大東京のもつ過去の影」「文壇の諸大家の筆の冴え」「画壇第一人者の挿画の妙」
この4つのキャッチフレーズで、いろんな文士、画家に、文章や挿絵を書かせる企画。ああ。新聞の威力、影響力が絶大だった、そんな時代の落とし胤。
執筆者は、高浜虚子、田山花袋、芥川龍之介、岸田劉生、加能作次郎、久保田万太郎、宮島資夫、谷崎精二、小山内薫。すごいね。
それぞれ、今(昭和2年)の東京と、自分が育った昔の東京を比較しながら、都市のあり様を、生き生きと描き出している。それこそ「大家の筆の冴え」で。
今は出張もなくて、東京へ行く機会もないけど、コロナが明けて東京へ行くことになったら、この本片手に走ってみるのも面白そう。とにかく今月の僕のイチオシ。
と、粛々とご紹介してきた新刊旧刊。本って、いいですね。
ともあれ今は、コロナが明ける日を待つばかり。