ひまわり文庫、2020年4月の新刊、コロナ禍中〔6195〕2020/04/01
2020年4月1日(水)雨のち晴れ
4月になりました。今日から新社会人、という方も多いでしょうが、大変な入社になりましたねー。入社式とか、どんなにしてるんだろうか。ある金融機関なんかは、入社早々、タブレットが支給されて在宅研修なんだとか。
僕らのような製造業は、在宅勤務といいましてもねー。でも、今を乗り切る、今を活用する方法を考える。行動する。
そんな訳で、ひまわり文庫2020年4月の新刊。
あのね。
コロナ騒動で、夜の会合などがほとんどなくなりました。そして僕はほとんどテレビを観んし、ネットも家ではやらんので、本を読むばかりなのである。なのでありますから、今月の新刊、多い多い。新刊史上最多の15冊。しかも、実はあと3冊読みかけ。これは来月のご紹介に致しましょう。
それでははじまりはじまり。いやね、15冊もあるから、長いよ、これ。家から出られずに退屈で退屈で仕方ない、という貴方だけ読んでください。でも責任は負いかねます。長いから。
まず、今年の直木賞受賞作「熱源」。基本、直木賞受賞作は読むようにしてる私。その年のレベルとか、傾向とか、わかりますきに。アイヌ人と日本人とロシア人が、サハリンで、何を思い、暮らしていくのか。戦争や社会変化に翻弄されながら。まあ、直木賞でした。まあね。直木賞。
まだ直木賞とってないけど、今、日本のエンターテイメント小説で異彩を放ってるのが柚月裕子。一昨年3月の「孤狼の血」と5月の「凶犬の眼」は、広島ヤクザと警察マル暴の話で、強烈だった。 映画もみてしまった。柚月裕子さん、広島弁がとんでもなく仁義なき戦いなので、広島出身とばかり思ってたら釜石出身なんですね。意外。
その柚月裕子の「佐方貞人シリーズ」が、今月の新刊。「最後の証人」「検事の本懐」「検事の死命」。ああ。痛快丸かじり。こんなの、小説の中の話だと思ってたら、現実に出てくる出てくる。だからリアリティがでてきましたねー。どれも、一気に読み干せます。そう、飲む干すように、読み干すのが柚月裕子。何も考えない。リフレッシュリフレッシュリフレッシュリフレッシュ。
そんなリフレッシュの勢いで買ったミステリ、推理小説が2冊。
古典中の古典、江戸川乱歩の「人間椅子」。その書名をとった3人組のロックバンド「人間椅子」は、イカ天出身やけど、それは関係なくて、うちの息子が大学のときに「人間椅子」のコピーバンドやってました。いや、それも関係なくって、さすがの江戸川乱歩。おどろおどろしいのは得意やねー。
それと、これももうミステリの古典と言えるかも知れない島田荘司の「火刑都市」。これ、今読むと、ちょっと安易な設定に見えます。今のミステリ複雑さから見たらね。でもまあ、秀作。
ここまではまあ、痛快丸かじり系の小説だ。アタマ使わんいけいけどんどん。
今月の小説はもう一冊あるけど、これは深い。とっても深い。魯迅だから。
「いま、なぜ魯迅か」という佐高信さんの本読んで、魯迅の思索、思想の深さに思い至り、学生のときに読んで以来の「阿Q正伝・狂人日記」を買いました。あの時代に日本で医学生として過ごし、大学の空気にショックを受け、自分のあるべき姿、進むべき方向を文筆家に定めて疾走した、魯迅。
そして、今こそ日本には、批判と抵抗の哲学が必要ではないか、と喝破する佐高信。
こっからは新書4冊。今回唯一の数学物理系の本が「高次元空間を見る方法」。物理系の本を読んでて、4次元とか5次元とかn次元とかでてくるけど、僕ら文系人間にはまったくイメージができん。それを、なんとかイメージできるようになってもらおう、と書かれたのが、この本ね。見えるようになる、と書いてます。で、見えるようになったかと申しますと、それは内緒。秘密。簡単そうに書いてるけど、そうは問屋は卸さないのだ。
「アルピニズムと死」は、若い頃には天国に一番近いクライマーと呼ばれ、世界中の危険極まりない崖、山、雪に挑んできたアルピニスト、山野井泰史が、多くのクライマー、挑戦者が山で命を落としていく中、自分が何故生き残っているのかを考え、著した本。僕も一人で山登りは好きやけど、ここまでのストイックさは、ありません。でも、ちょっと憧れる。気持ちも、わからんでもない。わからんでも、ありません。
「残酷な進化論」は、更科功先生が、現生人類は進化の頂点にいる訳でもなんでもなくって、多くの種、生命の、一つの通過点である、ということを丁寧に説明してます。僕たちは「不完全」である。機能によっては、他の生物がずっと便利な機能を備えていることもあるし、設計ミスみたいみみえるものも、たくさん。「進化」というものを、目から鱗落ち理論で解説している佳本ですねー。
モーツァルトは、生涯、「アマデウス」と名乗ったことはなかった。あまりにも「アマデウス」という映画の存在が大きいので、みんなアマデウスと思ってるけど、本人はイタリア語読みで「アマデーオ」とか「アマデ」とか署名するのを好んだと言う考証。
その経緯も面白いけど、とにかく弾けてて、常識破りで、敵も多くって、破天荒なモーツァルトのことが、この本でよく理解できました。「モーツァルトはアマデウスではない」。ああ。魔笛、聴きたくなった。他の評伝も読みたくなった。
やはりモーツァルトは、神がこの世に降臨させた奇跡であったのかも知れない。本当に。
「悪漢の流儀」は「ワルの流儀」と読みます。そう。許永中の最新刊。出すねー次から次へと。こないだ、本人がその半生を描いた「海峡に立つ」を読みました。どこまで真実かわからんけど、読み物、そして人生としては無類の面白さ。無類だったから、本屋でこれ見つけたら、買わんという選択肢は、ない。期待を裏切らない展開とエピソード。政治家とかが実名でバンバン出てくるのが、臨場感満点ね。いやー、面白い、許永中。
イトマン事件の許永中が、新しい人生を切り拓いている感じがします。
最後。我らが橋本治。
「失われた近代を求めて」の上下巻。
最近、馬場孤蝶に端を発して田山花袋、国木田独歩、そして樋口一葉を読んだりしてます。田山花袋の「東京の三十年」には、明治の文壇のありよう、推移、人間関係などが書かれてたけど、それを読んでからこれ読むと、面白かった。金高堂で見つけて、うっかり買ってしまいました。
いやね。橋本治の文章は理屈っぽくてまわりくどくって、わかったようなわからんようなで、行ったり来たりなんだけども、いつの間にか引き込まれて読み切ってしまうのである。昔、大学生協で買った「秘本世界生卵」を思い出しました。
ともあれ、これを読むと、文語体から言文一致、口語体の文章ができあがっていく明治の風景が眼前に広がってくる気がします。気がするだけかも知れません。でも、田山花袋、森鴎外、夏目漱石、気に木田独歩、北村透谷、二葉亭四迷などなどが、何を考え、何に挑み、何に悩んで何をやらなかったのか、みたいなことが目の前でグルグルグルグル。そんな本です。橋本治だもの。
と、まあ、長くなりました。多いですもの。
今月の一押し、どれにしよう。意外かも知れませんが、「モーツァルトはアマデウスではない」にしときましょう。モーツァルト、人間が凄すぎ、面白すぎ。
でも、長期戦になりそうなコロナ騒動ですから、この際、普段は読まんような本をたくさん読んどくのもいいね、と思いました。
ここまで読んでくださった貴方、ありがとうございます。時間取らせました。ごめんなさい。