野〔6636〕2021/06/16
2021年6月16日(水)曇り、雨
今朝は「野」について、考えよう。
「野」。久々に僕の好きな「大言海」で「野」の項目を見てみました。
「廣キ平地。原。」
シンプルな説明やねー。そこで、ネットで調べてみると、いろんなことがわかってきました。ここで登場するのが、我らが白川静先生。僕は以前から白川先生の漢字学が好きで、白川先生が一人で編纂した奇跡の漢字語源辞書「字統」「字通」は、持ってます。ところが「字訓」は持っていない。
このページによると、「字統」では、中国での「野」の意味、つまり都域に対しての田野、といった説明が書かれてるとのこと。ところが「字訓」では、日本での、独自の「野」の解釈が説明されてて興味深い。興味深くないですか?
どういうことか。「字訓」で書かれている日本での「野」は、こう。
「広々としていて、人の住まない土地、農耕などの及んでいないところ、野原をいう。区別していえば、原は広々として平らかなところ、野は山裾などのゆるい起伏のある傾斜地をいい、野山、裾野のようにいう。」
そう。僕らがもっている「野」のイメージは、これに近い。
高知の地名で見てみよう。以前にも見て、同じようなこと書いた記憶があるけど、それはそれ。今日は、「古地図散歩」で見てみました。
このスマホに表示している古地図は、明治後期の、この場所。最近できた高知東部自動車道、なんこく南インターのすぐ東界隈。国道から言うと、グドラックの南側の山(船岡山)の、その南。船岡山と向山に挟まれた場所。地名見ると、西から順番に「介良野」「伊達野」「大そね野」「西野野」。「そね」は漢字やけど、変換できません。
西野野以外はなかなかの難読地名で、「けらの」「いたちの」「おおそねの」。「野」のつく地名がこんだけ並ぶのは、この辺り一体が「野」であった証だと思われます。
では、「山裾などのゆるい起伏のある傾斜地」なのか。そんな感じではないよね。山に挟まれてるけど。でも、おそらく、「農耕などの及んでいないところ」ではあったんだと思う。
地理院地図で「地形分類」を見ると、こうだもの。ここは物部川の旧河道が錯綜した、おそらくは湿地帯。「農耕が及んでいな」かったことは、この条里でわかるのである。
以前にも書いたように、律令制度が広がった時代、つまり7世紀末から8世紀初頭、班田収授で税金を取る為に、全国に条里制が布かれました。面積計算がしやすいようにね。高知では「香長条里」と呼ばれる条里が見事に広がってるけど、この界隈ではその条里が、ちゃんとしてません。つまり、ここは田んぼではなかった、ということ。田んぼができなかった場所。
同じように、更新世段丘である長岡台地に香長条里が及んでいないのは、そこが段丘上で水捌けが良すぎて、田んぼには適していなかったから。
てな訳で、土佐での「野」は、白川先生が言うたように「山裾などのゆるい起伏のある傾斜地」ではないけど「農耕などの及んでいない」土地であったことは、わかったと思います。興味ないですか?
地名は、その土地の歴史を語っています。