ひまわり文庫、2020年9月の新刊〔6348〕2020/09/01
2020年9月1日(火)晴れ
今日から9月。週間予報見ると、明日からずうっと雨。ホンマやろか。この予報当たるとすると、それはそれでちょっと、嫌。秋雨前線にはちと早い。
そんな訳でひまわり文庫、9月の新刊。今月は、一気に読めて面白いの、多いです。夏ですきんね。じっくりよりは、一気読み。
いきなり「水曜日のクルト」から。この童話集に入ってる「めもあある美術館」を読むために、書いました。僕が小学生の時の国語の教科書に載ってた「めもあある美術館」は不思議な作品で、半世紀近く経った今でもよく覚えてる物語。それを「水曜日のクルト」で今も読めること知って、買いました。
僕は、半世紀前から今まで、どんな絵を描いて飾ってきたのか。そしてこれからも、まだまだ白紙のキャンバスが並んでいることを思えば。いろんなことを考えさせられる物語でした。
その「水曜日のクルト」を書いたのは大井三重子さんで、大井さんは仁木悦子のペンネームでミステリもたくさん書いてます。「猫は知っていた」は、その仁木悦子さんの、江戸川乱歩賞を授賞した作品。昭和32年という時代を楽しむこともできる、女性作家の手による本格ミステリの傑作。面白かったー。
半村良の「黄金伝説」。先月、半村良「産霊山秘録」を呼んで懐かしくなり、古本で買って読みました。40年振りに読んだ「黄金伝説」は、40年前とはまた違う読後感で、楽しかったです。
ここでコロナ関連。日本のウィルス学を牽引する学者、河岡義裕による「新型コロナを制圧する」は、コロナのこと、わかりやすく解説してくれます。いろんな「専門家」がいろんなこと言うてる中で、この本は押さえとかんといかんと思います。河岡先生のお父さんは土佐清水市出身で、上海の東亜同文書院に学び、貿易関係の仕事をされた人物。そんな関係で、海外での勉強を強く勧められた河岡少年は、広く世界で学ぶ中で、ウィルス学の世界的権威になりました。正しいウィルスの知識は、この本で。
金高堂をウロウロしてて買った「幽囚回顧録」。聖将と呼ばれ、日本軍占領中のジャワの司令官として、軍部中央に「手温い」と罵られながらも、現地の住民の理解を優先した軍政を行い、太平洋戦争中の陸軍指導者の中では例外的に評価の高い軍人、今村均の、自省録。戦後、自ら志願して部下たちが残留しているマヌス島の刑務所に入所し、帰国後も、自らを家に軟禁するように、静かな戦後を自制しながら送った将軍。陸軍軍人には、こんな人も、居りました。もちろん、あの時代。思想的な限界はありましたが。あくまでも例外やけど、知っておかなければならない軍人の、一人。
歴史関係で言えば「中世史講義」。7月の新刊で紹介した、Jr.2号が贈ってくれた「中世史講義戦乱編」の、政治体制などに焦点を当てた本。勉強になりました。
「人事の古代史」も、古代日本の政治、制度、社会などを、律令官人制などの公的な人事制度とその運用を詳細に検証しながら、詳しく解説。実態を掴むには、こういった細かくて緻密な検証が、役に立つ。
橋本治は、やはりおもしろい。「そして、みんなバカになった」は、読んでみたくてまだ読んでなかった本。かなり斜めから見た、しかし的をついた、現代日本の社会論。これも金高堂ウロウロで見つけた本やけど、金高堂さん、良い仕事してます。ありがとう!
さて。
こないだ、高知新聞の「常夜灯」というコーナーに、元京大総長で現在京都芸大学長の尾池和夫先生が「トンネルと水と地震と」という文章を寄せておられたの、ご紹介しました。地学の巨人、尾池先生は、高校の大先輩。そしてこの文章は、立場的にズバリは言えんけど、リニア新幹線の工事についてのJr東海の姿勢について、地質学者の立場から婉曲に意見してるものと、見ました。たぶん、そう。
そしてその文章で少し触れてたのが、吉村昭「闇を裂く道」。大正から昭和にかけ、足掛け16年かけて行われた東海道線丹那トンネルの工事で、予想を遥かに超える湧水が工事を阻み、また、丹那盆地の豊かだった風景を劇的に変えてしまった事実を描いた「闇を裂く道」。その文章に、尾池先生が地震学者としてお墨付きを与えてました。しかもその工事が丹那地震を誘発した原因の一つかも知れないという仮説を書いてる意味は、大きい。今日は9月1日。
まだ読んでなかったので、早速買って読みました。「闇を裂く道」。すごい。吉村昭の筆力が、日本のトンネル工事史上最難関工事のひとつとされる丹那トンネル工事とその影響について余すところなく描き出す。すごい。尾池先生お墨付きの「闇を裂く道」は、リニア新幹線関係者全員に、一度は読んでおいてもらいたい。静岡県の感情は、これ読まないとわからんかも知れません。もちろんJR東海社長には、絶対読んで欲しいね。
吉村昭と言えば、無人島長平のこと書いた「漂流」もあったことを思い出し、読みました。長平は、赤岡岸本の船乗りで、暴風雨で遭難して鳥島へ漂着、大変な孤独と苦労の末に、12年の後、自作の船で青ヶ島、八丈島へたどり着いて土佐に帰還した人物。FRP製の像が「珍百景」で紹介されたけど、偉人であることは間違いありません。「漂流」、面白かったです。
「動く大地の鉄道トンネル」は、もちろん「闇を裂く道」に触発されて買った本。土木工事に詳しいライターが、丹那トンネルの工事と、日本トンネル工事で最も難工事だったとされる「北越急行ほくほく線」の「鍋立山トンネル」の工事を、専門的解説を交えながら描いた、本。トンネル工事の難しさが、この本読めば、わかります。湧水のことについては触れられてないけどね。
今月の一押しは、やはり「闇を裂く道」でしょう。文句なし。すごい迫力の本だし、その本に尾池先生が触れてることで、説得力が増しました。中央リニア の問題は、この本読まずして語れない。
あと、一番最初に触れた「水曜日のクルト」も、個人的には強く推したい。「めもあある美術館」を覚えてるそこの貴方には、お勧めです。
いつものように長くなりました。いよいよ始まるコロナの9月。家でゆっくり読書も、いいっすね。