ひまわり文庫、2019年8月の新刊〔5951〕2019/08/01
2019年8月1日(木)晴れ
8月。もう、8月か。はや8月。夏、真っ盛り。強烈な日差しが身体に嬉しい季節。こんな季節はランニングと読書に限ります。
そんな訳でひまわり文庫、8月の新刊をご紹介しましょう。今月はまた、ちょっとマニアな方向に走ってますのでご注意ください。また、とっても文章長いですきんね。重ねてご注意ください。
まずは右上。岩波新書の「北原白秋」。言わずと知れた言葉の魔術師、北原白秋の評伝。どんなジャンルであれ、あの独特の調子で紡がれた言葉の数々が、あまりにも美しくて哀しくて、胸に迫ってくる。童謡も短歌も詩も散文も。現代の日本語文学というものが成長していく過程の中で、言葉というものに独特の感性をもってこだわった巨人。北原白秋は、やはり、すごいと再認識しました。
邪宗門とか、いろんな代表作があるんだけども、ついうっかり買ってしまったのが「フレップ・トリップ」。北原白秋は、その円熟期をむかえた40歳頃、北海道から樺太への旅行をします。その旅日記などの文章を美しくまとめたのが「フレップ・トリップ」。フレップは赤い実、トリップは黒い実ね。白秋らしい。
でもこの本は、白秋にしてはかなりウキウキ感が溢れてるという珍しいものらしいです。作品中にリフレインされるのが、この言葉。
心は安く、気はかろし
揺れ揺れ、帆綱よ、空高く・・・
北原白秋の美しい言葉。その源に、明治期に編纂された「言海」か、昭和になって刊行された「大言海」があるらしい、と知りました。これはもう、買うしかない。という訳で古本で買いました。「大言海」。すごい。おもしろい。こんな面白い辞書があったことを今まで知らなかった迂闊さよ。
で、この「大言海」のおびただしい語彙を、「綴字逆順排列」という個性的な順番で調べやすくしたのが「大言海分類語彙」。これも便利。いつか、この二つを使って長大な文章を書いてみたいな、などと思わせてくれる、本二冊。
この「大言海」にハマって、自分がどうやって「大言海」を楽しんでるかについて書かれた本が「言葉の大海へ」。まあね。他人がどんなに楽しいか、について読んでも、僕はそんなに楽しい訳ではない、ということに、気付きました。やはり、「大言海」は、自分一人でじっくりまったり読み込むのが、一番楽しい。
右下へいくと、「ヒト夜の永い夢」。新聞書評欄で見て、書いました。南方熊楠や福来友吉など、昭和初期のちょっと変わった有名人がどんどんと登場してきて、粘菌によって知能を得たロボットが動き出す、という異色SF。登場人物とかテーマとかがツボだったので読んだけど、まあ、こんなもんでした。テーマは面白いのにね。ちょっと荒唐無稽すぎたりしてね。
その左はいつもの伊坂幸太郎。小惑星の衝突により、あと5年で人類は消滅してしまう、という設定の中、ヒトはどう生きていくのか。さすがの伊坂幸太郎。
中段。右端は、旧物部村出身の宮地たえこさんという郷土作家が、その山村を舞台に書いた、珠玉の短編集、「槙山のそら」。椋庵文学賞の受賞作も入ってて、なかなか素敵な、高知の山村を体感できる佳本でした。
マイブーム片山杜秀は、今月は「歴史という教養」。そう。歴史という教養は、とても大切。ちゃんと、キチンと勉強しよう。
そんな流れで「歴史戦と思想戦」。近年の極右論客のロジック、レトリックを詳説し、なぜ、トンデモ言説が一定の力を持つようになったのか。その戦略は。などなどが理解しやすく書かれてます。
「神社の古代史」はね、日本の神様について、その成り立ちや存在、信仰のありようなど、本当にわかりやすく書いてくれてます。これはちょっと、良い本。僕の好きな大神神社。国家神道の伊勢神宮。宗像と住吉。石上神宮。鹿島と香取などなどを例にとり、律令国家からつづく神社政策と現在の神社の関係などなど、いや、本当にストンと落ちてくる神様解説本でした。
最近、数学関係、ちょっと読んでなかったので、ついつい買ってしまったのが「宇宙と宇宙をつなぐ数学」。望月新一さんという気鋭の数学者が発表した、今までの数学の概念を変えてしまうというすさまじい理論、宇宙際タイヒミュラー理論を、望月博士の盟友である加藤文元博士が解説した、本。
最初の半分は、この理論がABC予想を解決するだけではなく、従前の数学の考え方を覆すほどの画期的な理論であることの、説明。だから、今だに、数学界の中でもほとんど理解されてない、という話で、そこまではまあ、なんとなくそうなのか、とわかる、話。後半は、いよいよ宇宙際タイヒミュラー理論の説明になるのだが、なるのである。はい。難解。全部読んだけど、頭の中はお花畑でした。まあね。頭の体操ですきんね。
最後。
上に書いた「大言海」と「大言海分類語彙」を出版してるのは、その創立に土佐人がかかわった冨山房なんですね。その冨山房が出版してる本を見てて、とても魅力的だったので、買いました。
あのね。この書名、書けません。ここには書けない。現代では、書けません。そんな、書名。
別に、この本が差別的なことを書いてる訳でもなんでもないけど、ちょっとすごい題名ね。
著者きだみのるは、明治28年生まれ。開成中学から慶応中退、渡欧。パリ大学で「古代社会学」を学び、世界を旅、帰国後、かのアテネ・フランセの教壇に立ったりしながら、社会学などを深めていく。そして戦争末期から、東京東端の小さな山村の廃寺に住み込み、村の住民として、村人と交流を深める。その生活を描いたのが、この本。すごいね。東京でも、こんな風景が、つい数十年前までありました。民俗学的にも文化人類学的にも面白いけど、読み物としでもすごい。
その村は、今は八王子市に組み込まれ、地図でみるとすぐそこまで住宅地が迫ってきている都会だ。調べてみたら、この場所が、きだみのるが住んだという場所らしい。
たぶん、当時の日本のどこにでもあった、山の村の暮らしを、臨場感あふれる文章にて描き出す。
そのことにより、きだみのるは、高い評価を得たけども、その村人からは非難され、避けられることになったと言います。
きだみのる恐るべし。冨山房恐るべし。
いつか、その山村を訪ね、山を走ってみたいと思いました。
そんなこんなのマニアな8月新刊。ちょっと、嬉しい本が多かった8月新刊。
暑い夏は、ランニングと読書に限りますな。