ひまわり文庫、2018年8月の新刊〔5589〕2018/08/04
2018年8月4日(土)暑いです
暑い夏。今日は土曜日。そんな訳で、ひまわり文庫8月の新刊をご紹介しよう。読書は脳みそのストレッチ。
左端。「ゼロからトースターを作ってみた結果」は、イギリスのアートカレッジに通う大学生が、卒業論文のテーマとして表題のことを考えつき、実行してみた報告。材料のすべてを、その素材を採るところから始めてトースターを作ってみたらどうなったか。鉄は鉄鉱石の鉱山へ。自宅で鉄の精錬やプラスチックの化合をやってみたりして、できあがったものはいかに。ネットで公開しながらやったので、いつの間にか世界中で話題になっていったという卒業制作。
どうせやるならこれっぱあのこと、やってみたい。世の中、自分だけの力では何もできないことを自分の力で証明した本とも言えましょう。
山本七平「一下級将校の見た帝国陸軍」。昔、高校生の頃に「私の中の日本軍」を読んで感銘を受けたけど、日本軍に関する知識がかなり増えた今、山本七平さんの文章は、当時とまったく違う具体的にして奥深い感銘を、僕に与えてくれる。下級将校であった七平さんの文章であるからこそ、その思索は、切実で深い。多くの人に読んでもらいたい本です。
伊坂幸太郎が2冊。「アイネクライネナハトムジーク」「オー!ファーザー」。もうね。一気に、あっと今に読めてしまう、気分転換や移動中読む本に最適なのが伊坂幸太郎。読後感も、ほのぼの爽やかだし。ストレス解消本。
門井慶喜の作品も、僕のツボジャンルの薀蓄が散りばめられた、読みやすいミステリが多いのが嬉しい。日露戦争、日比谷焼打事件と徳富蘇峰を背景に、知の巨人が登場するという、まあ、ツボの中のツボの設定、「東京帝大叡古教授」。これも一気に読めて面白かったです。ストレス解消本。
「列強の侵略を防いだ幕臣たち」は、以前話題になった「明治維新という過ち」という本の続編。幕末。優秀な幕臣たちが、うまく国際情勢の中で日本を導いて行こうとしていたのに、薩長を中心とするテロリスト達が掻き乱し、こともあろうに政権を握ると手のひらを返す。あれほど攘夷攘夷と幕府を追い詰めていたのに。
最近、こういった視点で幕末維新を見直す動きがあるのは、良いことだと思う。ちょっと表現が先鋭的だけど。確かに、明治維新後、イメージとしてつくりあげられてきた虚構の日本の姿は、知っておく必要が、ある。そもそも「維新」という言葉も、同時代的には「ご一新」が正しい、後で創られた言葉だし。「明治精神への回帰」などと言う輩がでてきている今の社会風潮の中で、こういった視点の本が出るのは、良いと思いました。
そして南方熊楠。知の巨人、南方熊楠を読み解く。すごい。「極端人」であった南方熊楠は、常人には理解できない行動の中で、大自然と「生きる」ということについて深く深く広く広く考察した巨人。中沢新一による解題も、なかなか読み応え、あり。最近、南方熊楠と粘菌にハマってます。
「音律と音階の科学」。物理から見た音楽。そしてそれが、どのような歴史を辿ってきたのか。まあ、興味があれば、どうぞ、という本ですね。
欲しかった本を、やっと手に入れました。「横井庄一のサバイバル極意書」。ご承知の通り、戦後、グアム島のジャングルで28年間暮らした後発見され、当時小学生だった僕らに、今も「戦後」である、というショックを与えてくれた横井庄一さん。その、ジャングルでの暮らしを解説。究極のサバイバル術。
今の便利な道具がジャングルにあったら、もっと楽だったでしょう、と言われた横井さんが、「便利な道具があったら逆に生き残れなかったと思う」と言うているのが印象的。僕らが考えるより、ずっとシビアで緊張に満ちたサバイバルだ。
最後。「卑弥呼の墓は、すでに発掘されている」。近年、纏向遺跡の発掘成果などから、邪馬台国近畿説が有利になってきた、人によっては決着がついた、とも言われてます。そして纏向の箸墓古墳が卑弥呼の墓かも知れない、などとセンセーショナルは話題が振りまかれる。しかし。安本美典さんは、一貫して、否定。恣意的な年代決定に異議を申し立て、福岡県の平原王墓が卑弥呼の墓である、という説を自信を持って述べる。邪馬台国も、福岡県朝倉市にあったと断定する。
今の考古学世論の状況では少数派だと思うけど、安本美典さんの文章は、読んでみるとかなり説得力があるんですね。いや、本当に。
記紀や古代の文献と、考古学的調査結果との整合性。邪馬台国時代の人口の科学的推定に基づく、魏志倭人伝記述との整合性などなど。かなり面白くて、まだまだ邪馬台国論争は決着してないな、と思わせてくれます。こないだ、大阪へ行った時に、梅田の紀伊国屋書店で買いました。
まだまだ暑い日が続きます。
オーテピアが完成したので、これから、図書館で借りた本を読むことが増えるかも知れない。すごい蔵書が開架で並べられており、館内を歩くだけで、知的好奇心が刺激されまくりますもの。
暑い夏。本を読むのは、脳みそのストレッチ。仕事。考察。合間に、脳みそのストレッチ。
8月の新刊でした。