颱風〔5956〕2019/08/06
2019年8月6日(火)台風通過中
昨夜から、降ったり止んだり。台風は現在九州縦断中でしょうかね。雨も風も、高知では、そんなにたいしたことありません。が、時折、ザーッときます。台風。颱風。
先月入手した「大言海」で、早速、台風を調べてみました。昭和初期編纂だから、当然表記は「颱風」。
これはまた、すごいね。詳しすぎ。言語の辞書とは思えない。百科事典もビックリ。
まずは、颱風の「颱」の文字について。この文字は支那の舊い文字にはない、という解説から始まる。そして、英語のTyphoon、アラビア語(亜刺比亜語と書いてるのは言うまでもない)の表記が続き、その音を訳した語が颱風であると、つづく。
そして。「台灣地方ヨリ吹キ起ル風トテ、支那人ガ颱ノ新字ヲ造レリト云フ」だって。この説は、ウィキにも書いてないぞ。
ウィキには、颱風語源の諸説のひとつとして、アラビア語で嵐を意味する言葉が東洋に伝わって「颱風」となり、西洋に伝わって「typhoon」になったというのを紹介してるけど、我らが大槻文彦先生は、大言海編纂にあたって、そんな語源の説まで収集してたのである。
アラビア語の音に、台灣から吹いてくるから颱風の文字を当てた、という説も、興味深い。
興味深い。興味深いけど、大槻先生の真骨頂はここからだ。
「其ノ發生状況ハ、彼ノまりあな群島、まあ志ャる群島、ふィりッぴん群島の附近一帯は・・・・」で始まる颱風発生の原理を、細かく詳細に解説した文章。この、写真の部分を少し読んで頂けるとありがたいです。
面白いでしょ?大言海。
恐るべし、大槻文彦。
各項目の例文も面白い、と、こないだも書いたけど、この左下に写ってる「大福帳」。
「臺帳ノ條ノ(一)ヲ見ヨ」なので説明は素っ気ないけど、例文がこれ。
傾城反魂香(寶永、近松作)中、アレアレ彼處ヘ大福帳担テ来ルハ、ミヤヂャナイカ」
別にね。こんなのの例文にわざわざ近松を引用する必要もないと思うけど、これが大槻先生の矜持なんでしょうね。いや、単なる趣味なのか。このマニア度は、すごい。学問に対するすさまじいまでの、熱意。
マニア、熱意と言えば、谷秦山さんも、すごい。
いやね。藩政期、儒学者、土佐南学の大学者として活躍した谷秦山さん。こないだ、高知城歴史博物館でやってる企画展「星を見る人~日本と土佐の近世天文暦学」を見てきました。谷秦山先生は、江戸時代の暦を自力で作成した天文学者、渋川春海に私淑し、とんでもない熱意でもって、極めてたんですね。知らんかった。その好奇心と熱意は、本当に、其の学問を究めたくて極めたくてたまらない、というもの。もう、溢れてます。熱意が。思いが。そして几帳面なこと。凄まじいほどに几帳面にまとめられた手紙や文書の数々。このマニア度は、大槻先生や、尊敬する白川静先生にも通じるものが、ある。
颱風の話でした。
時折、ザーッときてます。まだ、油断はできません。でも、今日もお仕事。先人の熱意に肖って、熱意、思いを込めて、仕事しましょう。